がしゃぽん娘がやってきた
皆さんはガシャポンをご存知だろうか?
そう、子供の頃に夢中になった人も、今でも夢中である人もいるかもしれないアレだ。
ガシャガシャやガチャガチャなど、名称は様々だが。
何が出るのか解らない。回す時の音。ワクワク感が子供心をくすぐる存在。
その存在が、何故か家にあった。いや、いたというべきか。
なにしろそのガシャポンは、小さくて可愛らしい女の子の姿をしていたのだから。
さて。
――――
どうしようかな、と。
それしか頭に浮かんでこない貧弱な脳味噌が憎い。
自分の状況を確認してみよう。
俺、一人暮らし。彼女無し。まかり間違っても子供ができるような状況に無し。
自分で確認していて悲しくなってきてしまった。
と、地味に落ち込んでいると目の前の少女がおもむろに近づいてきた。
「げんき、だせー」
ぽんぽんと俺の頭を叩く少女。ああ、娘ってこんな感じなんだろうか。ああ、凄く癒される。
しかし、どうしてガシャポン少女が俺の家に居るのだろうか。
そもそも俺はガシャポンを頼んだ覚えがない。そしてそんなお金も無い。
だとすれば、本当にどうして。
顔を上げて、改めて少女を見る。
小柄な体つきに、整った可愛らしい顔。パステルカラーの髪の毛。
そして頭の上には、何かの冗談かと思えるガシャポン。
性格には、ガシャポンがそのまま乗っかっている訳ではない。
ガシャポンの本体というか、商品紹介を行う部分というか――そんな感じの部分とガシャポンのノブを組み合わせたような物を乗せている。
半信半疑でノブを回してみたところ、本当にカプセルが出てきた。
うん、口から。
しかも、う゛ぉぇぁ゛って感じで。
苦しい感じではないにしろ、なんというか、その、すごく引っかかる。
中身は何故か飴玉だった。
「……?」
少女は自分がどうして見つめられているのか理解できずに首をかしげている。
その顔は恥ずかしさからなのか、若干照れた表情を浮かべているのだが。
これが反則的に可愛らしい。
こう、心臓を直に握り締められているかのような……それだとかなり意味合いが違うか。
「まわす?」
不意に発せられた言葉を、ちょっとどころかかなりいけない感じに変換してしまって瞬間的に焦るが、その意味に気付いてなんとか持ち直す。
というか、我ながらその発想は危険だ。流石に国家権力のお世話になりたくはない。
少女趣味なんて無いはずなのに……。
とりあえず考えたまま少女を放置するわけにもいかないので、お言葉に甘えて早速一回。
「う゛ぉぇっ」
嫌な声と共に口から出てくるカプセルを両手で受け止め、少女が差し出してくる。
口から出したはずなのに、唾液などで全く濡れていないのが不思議ではあるのだが。
「また飴玉かな?」
カプセルを空けて出てきたのは、栄養ドリンク。
――俺を気遣ってくれているのだろうか。
その心遣いがたまらなく嬉しくて、思わず少女の頭を撫でてしまう。
「……むー」
不満げな声とは裏腹に、浮かんでいるのは照れたような表情。
よく見れば、うっすらと頬紅が咲いている。
可愛らしい。
いや、訂正しよう。
ものすごく、可愛い。
娘をもつ父親ってのは、もしかするとこんな心境なのだろうか、なんて思いながら頭を撫で続ける。
「……」
少女は気持ちが良いのか、目を細めて為すがまま。
抵抗する素振りすら見えないので、延々と撫でていたくなる。
なるけれども、そろそろ腕が疲れてきたので止めておく。
非常に名残惜しいと思っている自分が憎い。
「……ありがと」
感謝の言葉と共に、お礼の気持ちを表す為だろうか、ぎゅっとハグされた。
ああ、やばいくらい幸せ。
この娘が何処から来たのかとか、なんで家にいるのかとか、そんな疑問がどうでも良くなる位に幸せ。
――嗚呼、たまらん――
「まわす?」
「まわすまわす」
そしてガシャガシャを回す。
カプセルが出てくる。中身はチョコレートだ。
「二人で食べるか」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるガシャポン少女は、心の防壁すら飴細工の如く打ち砕く。
嗚呼、嗚呼、嗚呼……生きてて、良かったなぁ。
――――
某所、地下秘密基地内部。総統の間。
「総統閣下、また一人骨抜きです」
「ほおう、なかなかの力を発揮しておるな」
「全世界の人間を骨抜きにすることも、可能かと」
モニターに表示されているのは、日本地図。
その地図のいたるところにガシャポン娘のマークが表示されている。
「案外世界制服も簡単にいけるかもなぁ。無邪気って偉大だよな」
「そーとー」
黒いマスクを身につけ、黒い軍服を纏い黒いマントの黒尽くめが一人ごちていると、ガシャポン娘が駆け寄ってきた。
「おお、お前かー。あんまり走って転ぶなよ」
総統はガシャポン娘を抱きかかえ、そして高らかに笑う。
「ふあははははははははは!ふあああははははあはははははははは!ぐふげふっ」
むせても気にせず、なおも総統は笑いつづける。
「ははははははははは!いざっ、世界制服っ!」
この後、僅か数ヶ月でガシャポン娘は世界に浸透し、世の中から争いが消え去り、秘密結・社終わらずの童話が世界を手中に収めることになる。
ことになるが、それはまあ、別の話。
――――
「ガシャポン娘のいる生活……プライスレス」
「ごくらく〜」
何も知らない男は、風呂とガシャポン娘に癒されていましたとさ。
ぐだぐだEND
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